2年以上ぶりに引っ張り出してきたこのブログ。
今日行われたTRAPPIST-1を回る太陽系外惑星の記者発表に関する感想を書いてみます。
要点は、NASAちょっとやりすぎじゃね?というところ。
NASAのプレスリリースはこちら。
NASA Telescope Reveals Largest Batch of Earth-Size, Habitable-Zone Planets Around Single Star
今回の発見は、地球から約40光年のところにある赤色矮星TRAPPIST-1に7つの惑星が回っていて、それらがいずれも地球とほぼ同じサイズであること、そのうち3つが「ハビタブルゾーン」に位置していることがわかった、というもの。TRAPPIST-1には以前3つの惑星が見つかっていたので、今回は残り4つを発見し、またそれらのサイズを測定したというところがこれまでのこの星の観測成果からの前進です。
NASAが発表したTRAPPIST-1惑星系の想像図。Credit: NASA/JPL-Caltech
他の星のまわりで言えば、地球サイズの惑星はこれまでもいくつも見つかっていますし、「ハビタブルゾーン」にある地球サイズ惑星もこれまでに見つかっています。ひとつの星のまわりに地球サイズの惑星がこれほどたくさん回っているのが見つかった、というのは新しいところですね。
というわけで、確かに研究としては一歩前に進んだことに間違いはないですが、大騒ぎするほどの大ジャンプではないのでは?というのが私の印象です。NASAは今回「太陽系外惑星に関するエキサイティングな発見」として記者会見を事前に告知していたわけですが、ふたを開けてみればそこまでではなかったな、と。
こうして会見を事前に告知して、そのわりに発見の中身を聞くとがっかりする、ということがNASAの記者発表では何度もありました。NASA様のネームバリューのおかげもあってそれはそれは話題になるのですが、研究者コミュニティでは不信感に似た感情が芽生えつつあるのも確かです。太陽系外惑星はわかりやすい研究テーマですし、普段天文学に関心のない人を振り向かせる力を持っていると思いますが、あまりこうしたことを続けていると「オオカミ少年」になってしまって、巡り巡って自分たちの首を絞めてしまうのではないかと危惧します。
私も広報担当として研究成果のプレスリリースを書く仕事をしています。わかりやすく、多くの方に興味を持ってもらえるように成果を紹介することは間違いなく重要な使命です。そして、"わかりやすさ"と"正確さ"のせめぎあいは、いつでも存在します。 私もいつも悩みます。でも、今回のはちょっとやりすぎではないかと思う点が多いのです。
上に挙げた想像図も、完全なる想像図で、 惑星の表面の模様や色は今回の観測ではわかりません。大気があるかどうかもわかりません。大気がなければ表面に水もないでしょう。「ハビタブルゾーン」というのは、地球のような大気があれば惑星表面に水が液体で存在できて地球型生命の生存に適している領域ということですが、これは中心星の明るさと星から惑星までの距離だけでは決まりません。本当にハビタブルかどうかはわからないのです。
NASAは、惑星表面を想像で描いたVRコンテンツまで準備しています。 そこまで準備できる体力はすごいと思いますが、これはもう単なるSFの領分。さすがにやりすぎじゃないですかね。
今月、Natureの姉妹誌 Nature Astronomy に、太陽系外惑星を説明する時の言葉遣いに注意すべきだ、という文章が掲載されました。
"The language of exoplanet ranking metrics needs to change"
現在JAXAにいらっしゃる Elizabeth Taskerさん他の文章で、センセーショナルな言葉を不用意に使い続けると一般からの興味がすり減ってしまって、将来のプロジェクトを危機にさらす可能性があるという、まさに「オオカミ少年」になることを危惧する文章でした。「地球に似た惑星の発見」というニュースを何度も聞いた覚えがある方もいらっしゃるでしょう。前回のあれとどう違うんだっけ?ということが続いてきたのです。
山ほどある研究成果の中からどれをプレスリリースの題材に選び、どんな言葉で伝えるかというのは、私が業務で日常的に直面している問題でもあります。 研究というのは小さな一歩の積み重ねであって、大発見だけで研究が進むわけではありません。一方でプレスリリースは、研究業界内での研究発表とは違って、大きな前進や質的なジャンプを伝えるものとして存在しています。小さな一歩一歩を逐一伝えることにも意義はあるかもしれませんが、多くの場合は関心がすり減ってしまって本当に関心を持ってほしい成果も伝わらなくなってしまいます。それではプレスリリースの意味がない。ここぞという成果を的確に伝えてこそのプレスリリースなのです。
まあ、いろいろ事情もあるだろうしなかなか難しいのは私も広報担当としてはわかるのですが、天文学のほとんどが税金で賄われている以上、社会からの信頼は天文学の生命線です。真摯な態度を忘れないようにしなくては、と自らを振り返っても思います。
ところで、今回の成果はもともと欧州南天天文台(ESO)の観測所内にある望遠鏡でなされた研究をもとにしています。ESOもプレスリリースを出しているわけですが、そのタイトルが
"Ultracool Dwarf and the Seven Planets"
冒頭に挙げたNASAのリリースに比べてシンプルなタイトルにしたなと思っていたのですが、これが
"Snow White and the Seven Dwarfs"(白雪姫と7人のこびと)
にかけてあることにさっき気づきました。いやぁ、美しい。ESOはアルマのパートナーで、あちらの広報室とも日常的に仕事をしていますが、こういうセンスある人たちと一緒に仕事ができるのは素晴らしいことだな、と改めて感じ入った今回のリリースでした。
長くなってしまいましたが最後にもう一つ。今回のTRAPPIST-1は、質量が太陽の8%ということで、核融合反応が起きるギリギリの質量です。水素の核融合反応が起きる普通の恒星と、低質量過ぎてそれが起きない褐色矮星の境目にある天体といえます。私の研究テーマは軽い星の形成メカニズムですが、少なくとも10年位前までは、褐色矮星の形成過程はよくわかっていませんでした。普通の星と同じようにガスと塵が集まってできるという説はもちろんあったのですが、これほど軽量なガス雲が自分の重力でつぶれて褐色矮星を作れないのでは?という謎があったのです。別の作り方としては、たとえばより大質量のガス雲がつぶれて連星ができ、そのうちの低質量な一つが放り出されて孤立した褐色矮星になるのだ、という説もありました。どちらか一方しかないというわけではないと思いますが。今回TRAPPIST-1のまわりに7つも惑星が回っていたということは、後者のようなダイナミックなプロセスは経験していないということなのかもしれません。つまり、この星はより重い普通の恒星と同じようなプロセスでできた可能性があるわけですね。ダイナミックなプロセスを経ても惑星系が生き延びられるかどうかはシミュレーションしてみないと分からないですが、ハビタブルゾーンよりもその惑星系全体の形成過程にもスポットを当ててよい成果にも思います。
2017年2月23日木曜日
2014年12月31日水曜日
2014年を振り返る
2014年ももう終わり。1年を振り返ってみると、研究広報担当者としてはやはりSTAPの件が非常に大きかった1年と言えるでしょう。世間でこれほど科学広報・研究広報のことが話題になったことはこれまでなかったような気もするし、僕自身としてもいろいろ考えた1年でした。人物に光を当てる広報のやり方の是非、論文に虚偽があった場合の広報担当の動き方や限界など。前のエントリはハフィントンポスト日本版にも掲載していただきました。12月26日の調査委員会報告で論文についてはほぼ決着がついたものと思いますが、氏の処遇など理解できない面もありますし、来年もまだしばらく注視していくことになると思います。
僕のことを振り返ってみると、今年はアルマ望遠鏡広報担当としてチリへの渡航が3回(NHKコズミックフロントの撮影対応、テレビ東京 世界で働くお父さん6の撮影対応、最新の天文学を普及するためのワークショップ対応)。世界で働くお父さんはお父さん本人には企画を知らせずに子供が訪問するので、準備しているこちら側もばれないようにピリピリしていました。無事にドッキリが成功して一安心。最新の天文学を普及するためのワークショップでは、日本のプラネタリウム・科学館関係者を引き連れてアルマを訪問しました。これをきっかけにたくさんの施設でアルマの展示やプラネタリウムが公開されるのを楽しみにしています。
一般講演は今年は22回。講演にお越しいただいた方、企画いただいた方、ありがとうございました。回数としては2013年より10回減りました。22回のうち7回が朝日カルチャーセンター立川での講座なので、もう少しいろんなところで話す機会をつくれたらいいかなと思います。ほとんど東京近郊なので、地方講演もやりたいですね。アルマの知名度はまだまだなので、これからも講演は力を入れたいです。
プレスリリースでは、なんといっても『アルマ望遠鏡、「視力2000」を達成』でしょうか。あの画像には僕自身もびっくり。こういう画像を出すために30年もかけて諸先輩方がプロジェクトを推進してきたわけですが、ホントにこんな画像が出るなんて、という印象。ウェブページの「公開」ボタンを押す手が震えるプレスリリースは久しぶりでした。
それから、前任者の異動に伴い、12月1日から臨時で国立天文台の広報室長を務めることになりました。最初に挙げたSTAPの件を考えても責任は重大ですが、アルマ望遠鏡広報ともども信念に沿って力を尽くしたいと思います。来年もどうぞよろしく。
僕のことを振り返ってみると、今年はアルマ望遠鏡広報担当としてチリへの渡航が3回(NHKコズミックフロントの撮影対応、テレビ東京 世界で働くお父さん6の撮影対応、最新の天文学を普及するためのワークショップ対応)。世界で働くお父さんはお父さん本人には企画を知らせずに子供が訪問するので、準備しているこちら側もばれないようにピリピリしていました。無事にドッキリが成功して一安心。最新の天文学を普及するためのワークショップでは、日本のプラネタリウム・科学館関係者を引き連れてアルマを訪問しました。これをきっかけにたくさんの施設でアルマの展示やプラネタリウムが公開されるのを楽しみにしています。
一般講演は今年は22回。講演にお越しいただいた方、企画いただいた方、ありがとうございました。回数としては2013年より10回減りました。22回のうち7回が朝日カルチャーセンター立川での講座なので、もう少しいろんなところで話す機会をつくれたらいいかなと思います。ほとんど東京近郊なので、地方講演もやりたいですね。アルマの知名度はまだまだなので、これからも講演は力を入れたいです。
プレスリリースでは、なんといっても『アルマ望遠鏡、「視力2000」を達成』でしょうか。あの画像には僕自身もびっくり。こういう画像を出すために30年もかけて諸先輩方がプロジェクトを推進してきたわけですが、ホントにこんな画像が出るなんて、という印象。ウェブページの「公開」ボタンを押す手が震えるプレスリリースは久しぶりでした。
それから、前任者の異動に伴い、12月1日から臨時で国立天文台の広報室長を務めることになりました。最初に挙げたSTAPの件を考えても責任は重大ですが、アルマ望遠鏡広報ともども信念に沿って力を尽くしたいと思います。来年もどうぞよろしく。
2014年3月22日土曜日
STAP細胞と研究広報
【3/24追記:この記事は私の個人的意見で、国立天文台広報としての公式見解ではありません。】
「多くの人にあまりなじみのない電波天文学の広報戦略として、『研究のストーリーを共有すること』を挙げ、その中の方針として4つの柱を立てます。その第一は、研究者の人としての側面を見せることです。」
これは、僕が現在のポスト(国立天文台の電波広報担当助教)の選考過程での面接の場で言った言葉です。今回のSTAP細胞に関わる様々な広報や報道(疑惑が出る前も、出た後も)は、だからこそ、僕にとって極めて深刻で重い課題となりました。
Natureに掲載された論文やその他の論文におけるいろいろな疑惑、研究不正の防止に関わることについては、自然科学の博士号を持つものとして思うこともいろいろあるのですが、ここではあくまでも「研究広報」の観点からの考察とします。
まずは最初にSTAP細胞の発見が発表されたとき。研究内容に関する報道も、そして小保方さん個人に関する報道も、かなりたくさん目にしました。山中さんのiPS細胞発見とノーベル賞受賞という背景もあって多能性細胞にわりとなじみがあったところに、「生物学の歴史を愚弄している、とコメントされた」など通常は外から見えない論文査読過程の苦闘、個性的な研究室と研究スタイル、そして若手の女性研究者であることなどキャッチーでわかりやすい点が加わり、大フィーバーとなりました。この時は、どこまで理研広報が仕掛けたんだろうかというところまでは考えていませんでしたが、「実験室にメディアを入れて現場を紹介できるのはいいな。天文学の場合はコンピュータの中で解析するだけだからな」とは思っていました。冒頭に書いたような「研究者の人としての側面」が伝わってうまくハマるとここまで大きくなるのか、と空恐ろしさまで感じたほどでした。
その中で違和感を持っていたのは、理研のプレスリリースの書き方でした。
『体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見』の書き出しは
この段階でもうひとつひそかに危機感を覚えたのは、報道に接した人たちからの厳しい意見でした。 「発見のことを伝えず人にフォーカスしすぎ」というネットでの声は山のように目にしました。新聞社のニュースサイトに行けば発見の内容や意義もきちんと掲載したうえで小保方さんの人柄やエピソードも載せている場合が多いのに、バズるのは圧倒的に人柄の方。これしか報道されていないような印象を持った人が多かったようです。研究者からもこの点に厳しい声が飛んでいるのを見るにつけ、「人を見せる」という僕の方針にダメ出しされているようで少し苦しかったのです。
そして疑惑の発覚と拡散、それも次々と。それに対して理研広報は「研究成果自体は揺るがない」と発表したと報道されています(例えば3月1日共同通信の「STAP論文に相次ぐ疑問 うっかり?信頼性懸念も」 )。そして3月14日、野依理事長他の記者会見。この間研究者としても研究広報担当者としても悶々と考える日が続きました。
会見(毎日新聞による会見の一問一答)。広報担当としては胃の痛む思いで見守っていましたが、理事長がきちんと出てきて説明したこと、4時間近くも打ち切らずに質問に答え続けたこと、調査委員会がきわめて慎重に科学的に検証をしているようすが伝わってきたこと、これにはほっとしました。
以上が、下手な感想文のようですが僕としての振り返り。では今回の件について広報はどうするのがよかったのか。僕だったらどうしたか。
一点目、最初の発表の時に人柄を押し出した点。カラフルな実験室や割烹着については中日新聞の記事によれば広報側で演出したのではなく、研究者側で決めたものとのこと。理研CDBの方のツイートでも
こういうのを研究者側から持ちかけられたら、広報としては止めるべきかどうか。実験している姿や研究の現場を見せるというのは研究プロセスの共有には有効な手段だと考えているので、僕だったら止めないというかむしろお願いするレベルかもしれないと思います。発見内容や研究内容を理解してもらうことも重要ですが、どのようにその研究が行われているか、その研究をなぜやっているのか、どんな思いでやっているのかというところを広く共有することも重要。そこまで共有できてこそ、有限のリソースを割いてその研究をやる意義があるかどうかを社会の中で議論し判断することが可能になると思うからです。そこには研究者の個人としての考えが色濃く反映されるはずですので、人としての側面を押し出すことは意義のあることだと今の状況でも僕は考えています。単にメディアに取り上げられやすいからいい、という考えではありません。
先週、外国特派員協会の会長を務めるLucy Birminghamさんの講演を聞く機会がありました。この方は科学ジャーナリストではありませんが、STAP細胞の件に関しては高い関心を持ってご覧になっていたようです。STAP細胞発見のニュースは海外でもトップで多く報じられ、その背景として研究のインパクトだけでなく「日本人の、若い女性の研究者であったこと、そして "Life outside Lab"つまり研究者ではなく一人の人としての姿が垣間見えたこと」がその理由だと話していました。当初の報道時「日本のメディアは人柄ばかり報じてレベルが低い」という批判もありましたが、これは正しくなかったようです。そもそもLucyさんの講演の主題はStorytellingの重要性を説くものでした。「だれがどのように発見したか」「発見の瞬間どう感じたか」「なぜその研究が重要か」を研究者が自身の視点から語り、広報はそれを伝えることが重要、という指摘。これには僕も大いに同意しました。もちろん過剰演出はダメですが、素の姿であるならばカラフルな研究室も割烹着も僕なら見せます。
二点目、疑惑が持ち上がった時にどう対応すべきか。論文に剽窃などがないかチェックするのは広報の仕事ではありません。しかしその論文をプレスリリースとして社会に広く公表するときには、広報にも重い責任があります。ただ高度に専門化した研究を分野外の人間がチェックできるかというとかなり不可能に近いわけで、プレスリリースや記者会見の際には研究者と密なやり取りをして真摯で厳しい眼で確認する程度のことしか実質上はできないでしょう。星の形成の研究を専門とする僕は同じ分野ならその発見の重要度や確からしさを感覚としてつかむことができますが、例えば遠方銀河の研究ではその感覚をつかむことができません。研究経験のない広報担当ならなおさらのこと。論文に疑いの目が向けられた時も、専門分野が違う場合にはその重要性や深刻さをどこまでつかめるかはわかりません。第三者的な立場で分野の近い研究者に助言を求めるなどしなくてはいけないでしょう。また経過報告については、上述のLucyさんは「虫がいる缶は早くふたを開けて虫を出すべき。そうすれば継続的に取り上げられることはない。」と語っていました。情報を包み隠さずできるだけ早くオープンにする、というのは危機の際の基本ではあります。
今回の疑惑を通して、論文査読や科学的検証などが多くメディアで取り上げられ、これまでにないほど科学のプロセスについての解説が世に出ました。これはとても重要なこと。一方で、研究広報はメディア掲載の先に何を目指しているのか(目先の予算獲得とかではなく)ということについて、研究者業界でもかなり意見に差があることもわかりました。企業広報について語られる際には、広報は企業から社会に情報を発信するだけでなく、社会からの意見を会社に入れる窓口であるべき、ということがよく語られます。機関広報として、あるいは研究業界の広報として、まだまだやらなくてはいけないことは多そうです。
「多くの人にあまりなじみのない電波天文学の広報戦略として、『研究のストーリーを共有すること』を挙げ、その中の方針として4つの柱を立てます。その第一は、研究者の人としての側面を見せることです。」
これは、僕が現在のポスト(国立天文台の電波広報担当助教)の選考過程での面接の場で言った言葉です。今回のSTAP細胞に関わる様々な広報や報道(疑惑が出る前も、出た後も)は、だからこそ、僕にとって極めて深刻で重い課題となりました。
Natureに掲載された論文やその他の論文におけるいろいろな疑惑、研究不正の防止に関わることについては、自然科学の博士号を持つものとして思うこともいろいろあるのですが、ここではあくまでも「研究広報」の観点からの考察とします。
まずは最初にSTAP細胞の発見が発表されたとき。研究内容に関する報道も、そして小保方さん個人に関する報道も、かなりたくさん目にしました。山中さんのiPS細胞発見とノーベル賞受賞という背景もあって多能性細胞にわりとなじみがあったところに、「生物学の歴史を愚弄している、とコメントされた」など通常は外から見えない論文査読過程の苦闘、個性的な研究室と研究スタイル、そして若手の女性研究者であることなどキャッチーでわかりやすい点が加わり、大フィーバーとなりました。この時は、どこまで理研広報が仕掛けたんだろうかというところまでは考えていませんでしたが、「実験室にメディアを入れて現場を紹介できるのはいいな。天文学の場合はコンピュータの中で解析するだけだからな」とは思っていました。冒頭に書いたような「研究者の人としての側面」が伝わってうまくハマるとここまで大きくなるのか、と空恐ろしさまで感じたほどでした。
その中で違和感を持っていたのは、理研のプレスリリースの書き方でした。
『体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見』の書き出しは
理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、【中略】短期間に効率よく万能細胞を試験管内で作成する方法を開発しました。となっています。主語は研究者ではなく理研。そして理事長の名前入り。この発表だけではなく理研のプレスリリースすべてこうなので、これが理研の方針なのでしょう。一方で僕が担当しているアルマ望遠鏡のプレスリリースでは主語はあくまでも研究者か研究グループにしていて、所属機関を主語にすることはありません。これは、研究を行うことが主眼の理研という研究所に対して、自ら研究を行いつつ観測装置を整備して研究者に使ってもらうことも使命である共同利用機関としての国立天文台、という機関のスタンスの違いを表しているのかもしれません。研究は機関に言われてやるのではなくて自らの関心や動機に基づいてやるものだ、と僕としては思っているので、理研のプレスリリースの書き出しには驚きました。あとから他の方の話を聞くと、これは日本の研究機関では伝統的に行われてきたやり方のようです。
この段階でもうひとつひそかに危機感を覚えたのは、報道に接した人たちからの厳しい意見でした。 「発見のことを伝えず人にフォーカスしすぎ」というネットでの声は山のように目にしました。新聞社のニュースサイトに行けば発見の内容や意義もきちんと掲載したうえで小保方さんの人柄やエピソードも載せている場合が多いのに、バズるのは圧倒的に人柄の方。これしか報道されていないような印象を持った人が多かったようです。研究者からもこの点に厳しい声が飛んでいるのを見るにつけ、「人を見せる」という僕の方針にダメ出しされているようで少し苦しかったのです。
そして疑惑の発覚と拡散、それも次々と。それに対して理研広報は「研究成果自体は揺るがない」と発表したと報道されています(例えば3月1日共同通信の「STAP論文に相次ぐ疑問 うっかり?信頼性懸念も」 )。そして3月14日、野依理事長他の記者会見。この間研究者としても研究広報担当者としても悶々と考える日が続きました。
会見(毎日新聞による会見の一問一答)。広報担当としては胃の痛む思いで見守っていましたが、理事長がきちんと出てきて説明したこと、4時間近くも打ち切らずに質問に答え続けたこと、調査委員会がきわめて慎重に科学的に検証をしているようすが伝わってきたこと、これにはほっとしました。
以上が、下手な感想文のようですが僕としての振り返り。では今回の件について広報はどうするのがよかったのか。僕だったらどうしたか。
一点目、最初の発表の時に人柄を押し出した点。カラフルな実験室や割烹着については中日新聞の記事によれば広報側で演出したのではなく、研究者側で決めたものとのこと。理研CDBの方のツイートでも
中日新聞などの記事に関して私の知る事実を述べます.「CDBでは実験室のデザインを研究リーダーが理研の施設担当者と協議して決定します。小保方研は10月末に完成しました.割烹着は以前からもときおり着用されていたと聞いています.これらの過程に理研CDB広報チームは関与しません.」
— Shigeo Hayashi (@roadman2005) 2014, 3月 15
と言われています(ツイート内の中日新聞記事は『STAP疑惑底なし メディア戦略あだに』 この記事では「会見に備え、理研広報チームと笹井氏、小保方氏が1カ月前からピンクや黄色の実験室を準備し、かっぽう着のアイデアも思いついた。」となっています。中日新聞はあとの記事でこれを修正したことになります。この記事で広報がどれだけ責められたか、中日新聞の記者はよく理解してほしい。)。こういうのを研究者側から持ちかけられたら、広報としては止めるべきかどうか。実験している姿や研究の現場を見せるというのは研究プロセスの共有には有効な手段だと考えているので、僕だったら止めないというかむしろお願いするレベルかもしれないと思います。発見内容や研究内容を理解してもらうことも重要ですが、どのようにその研究が行われているか、その研究をなぜやっているのか、どんな思いでやっているのかというところを広く共有することも重要。そこまで共有できてこそ、有限のリソースを割いてその研究をやる意義があるかどうかを社会の中で議論し判断することが可能になると思うからです。そこには研究者の個人としての考えが色濃く反映されるはずですので、人としての側面を押し出すことは意義のあることだと今の状況でも僕は考えています。単にメディアに取り上げられやすいからいい、という考えではありません。
先週、外国特派員協会の会長を務めるLucy Birminghamさんの講演を聞く機会がありました。この方は科学ジャーナリストではありませんが、STAP細胞の件に関しては高い関心を持ってご覧になっていたようです。STAP細胞発見のニュースは海外でもトップで多く報じられ、その背景として研究のインパクトだけでなく「日本人の、若い女性の研究者であったこと、そして "Life outside Lab"つまり研究者ではなく一人の人としての姿が垣間見えたこと」がその理由だと話していました。当初の報道時「日本のメディアは人柄ばかり報じてレベルが低い」という批判もありましたが、これは正しくなかったようです。そもそもLucyさんの講演の主題はStorytellingの重要性を説くものでした。「だれがどのように発見したか」「発見の瞬間どう感じたか」「なぜその研究が重要か」を研究者が自身の視点から語り、広報はそれを伝えることが重要、という指摘。これには僕も大いに同意しました。もちろん過剰演出はダメですが、素の姿であるならばカラフルな研究室も割烹着も僕なら見せます。
二点目、疑惑が持ち上がった時にどう対応すべきか。論文に剽窃などがないかチェックするのは広報の仕事ではありません。しかしその論文をプレスリリースとして社会に広く公表するときには、広報にも重い責任があります。ただ高度に専門化した研究を分野外の人間がチェックできるかというとかなり不可能に近いわけで、プレスリリースや記者会見の際には研究者と密なやり取りをして真摯で厳しい眼で確認する程度のことしか実質上はできないでしょう。星の形成の研究を専門とする僕は同じ分野ならその発見の重要度や確からしさを感覚としてつかむことができますが、例えば遠方銀河の研究ではその感覚をつかむことができません。研究経験のない広報担当ならなおさらのこと。論文に疑いの目が向けられた時も、専門分野が違う場合にはその重要性や深刻さをどこまでつかめるかはわかりません。第三者的な立場で分野の近い研究者に助言を求めるなどしなくてはいけないでしょう。また経過報告については、上述のLucyさんは「虫がいる缶は早くふたを開けて虫を出すべき。そうすれば継続的に取り上げられることはない。」と語っていました。情報を包み隠さずできるだけ早くオープンにする、というのは危機の際の基本ではあります。
今回の疑惑を通して、論文査読や科学的検証などが多くメディアで取り上げられ、これまでにないほど科学のプロセスについての解説が世に出ました。これはとても重要なこと。一方で、研究広報はメディア掲載の先に何を目指しているのか(目先の予算獲得とかではなく)ということについて、研究者業界でもかなり意見に差があることもわかりました。企業広報について語られる際には、広報は企業から社会に情報を発信するだけでなく、社会からの意見を会社に入れる窓口であるべき、ということがよく語られます。機関広報として、あるいは研究業界の広報として、まだまだやらなくてはいけないことは多そうです。
2014年3月13日木曜日
SOLiVE高校でALMAのお話
3月12日、ふたたびウェザーニュースのSOLiVE24にお邪魔してアルマ望遠鏡の紹介をしてきました。SOLiVEムーンという番組名はそのままですが、そのなかのSOLiVE高校という帯テーマでのお話となりました。セーラー服着たキャスターさん(+画面の向こうの視聴者の皆様)に向けて授業をするという趣旨ですが、これ画面だけ見るとパラボラアンテナの隣にセーラー服の女性がいるとか、結構シュールかも。
例によってYoutubeに上がってますので載せておきます(一つ目は26分45秒くらいからSOLiVE高校)。普通に講演しているときにも言われるのですが、僕はちょっと動きが激しいかもしれません。
例によってYoutubeに上がってますので載せておきます(一つ目は26分45秒くらいからSOLiVE高校)。普通に講演しているときにも言われるのですが、僕はちょっと動きが激しいかもしれません。
2013年7月19日金曜日
SOLiVE24の天プラタイム
ウェザーニューズ社の24時間放送SOLiVE24からお声掛けいただいて、天プラのメンバー が交代で毎週番組に出ています。毎週水曜日の夜7時から放送されている"SOLiVEムーン"のなかで、だいたい8時から9時までの1時間、キャスターの木島由利香さんとやり取りしながらいろんなお話をしています。Youtubeにもすぐにアップされるので、これまでのをまとめて以下に。各回のパート1は、だいたい真ん中くらいの時間からが天プラタイムになっています。
6月19日(亀谷さん、高梨くん パート1)
6月19日(亀谷さん、高梨くん パート2)
6月26日(平松 パート1)
6月26日(平松 パート2)
7月3日(日下部くん パート1)
7月3日(日下部くん パート2)
7月10日(内藤さんパート1)
7月10日(内藤さんパート2)
7月17日(川越さん パート1)
7月17日(川越さん パート2)
アルマ望遠鏡とか、太陽系外惑星とか、ニュートリノとか、割とがっつりとしゃべってます。
これからもまだ続くと思うので、ぜひどうぞ。
6月19日(亀谷さん、高梨くん パート1)
6月19日(亀谷さん、高梨くん パート2)
6月26日(平松 パート1)
6月26日(平松 パート2)
7月3日(日下部くん パート1)
7月3日(日下部くん パート2)
7月10日(内藤さんパート1)
7月10日(内藤さんパート2)
7月17日(川越さん パート1)
7月17日(川越さん パート2)
アルマ望遠鏡とか、太陽系外惑星とか、ニュートリノとか、割とがっつりとしゃべってます。
これからもまだ続くと思うので、ぜひどうぞ。
2013年6月15日土曜日
欧州南天天文台年報 広報関係を読む
欧州南天天文台(European Southern Observatory; ESO)。ALMAのパートナーとして、特に広報担当の私としてはESOの広報部門(ESO education and Public Outreach Department: ePOD)と毎月電話会議をしたり、3月の開所式では一緒に取材をさばいたりと、一緒に仕事をさせてもらっています。頻繁なプレスリリース、頻繁な動画配信(ESOcast)、美しい画像の連発、しっかりした広報ポリシーなど学ぶところがたくさんあります。いつかePODを訪れてその仕事ぶりを近くで勉強してみたいと思っていますが、なかなか忙しくてすぐにはかなわなそうなので、まずは遠隔で学べるところから。
そんなESOの2012年 annual reportが出ていました。そのうち広報関係は写真を入れて6ページ。ウェブアクセス、展示イベント、出版物などの情報がまとまっています。2012年はESO設立50周年という節目の年だったので、広報にも力が入っていました。自分のためのメモもかねて、情報と気づいたことをまとめておきます。
まずはプレスリリース。年間に53のプレスリリース、103のアナウンスメント。平均して週3個のニュースを出していることになりますね。これらのうちで最も人気だったのは VISTA望遠鏡による銀河中心方向の9ギガピクセル画像。このリリースだけで70万人が見たそうで、これまでのESOの記録の3倍を超えた、と書かれています。確かに1ページへの来訪者数としては凄い数。次に人気だったのは、アルファ・ケンタウリBのまわりの地球質量惑星の発見。こちらは、本ブログの記事にもしましたが、このニュースも60万人に迫る人が見たという試算になっています。ちなみに3位は、ALMAによる糖分子の発見(20万人弱)。こちらは日本でもプレスリリースを出しましたが、確かにこれはインパクトがありました。
ここでアクセス人数の試算は、以下の式を使っています。(勉強になるなぁ)
総数 = Google Analytics × 1 + EurekAlert × 10 + Meltwater × 250
Google Analyticsはウェブサイトへのアクセス数をそのまま数えています。EurekAlertは雑誌Scienceなどを出すAAASのプレスリリース配信サービス。× 10ということは、ここに1つ記事が出ると10人が見る、ということでしょう。Meltwaterはオンラインニュースのクリッピングサービスですので、×250ということは Meltwater で拾われたオンラインニュース記事の各々を平均250人が見ている、としているわけですね。日本のウェブニュースだと×250より多いような気もしますが、小規模なニュースサイトを考慮しての値なのか、あるいは日本と欧州では事情が違うのか。今度聞いてみようと思います。で、先ほどのアクセストップ3のうち、VISTAの写真はGoogle Analyticsだけで65万。一方でアルファ・ケンタウリBのほうはMeltwaterが約35万。ウェブアクセスは18万くらいだけれどもたくさんニュースに載った、ということですね。なおESOウェブサイトの総アクセスは380万、昨年より15%増だそうです。
観測画像のリリースは年間約100枚、つまり週2枚とのこと。画像の重要性が強く意識されていることがわかります。"ESO has cemented its reputation as a recognised and respected source of top quality astronomical images."というコメントからもそれがうかがえます。
映像のリリースはESO50周年記念の "Europe to the Stars — ESO's first 50 years of Exploring the Southern Sky"、展示はやはり50周年記念のものが大きかったようです。展示は20か国50カ所
の巡回展示で、30-40万人以上の来場者があったとのこと。国際機関のやることのデカさを感じます。国際機関だからこういうイベントよりはオンラインの活動が主な広報になるんだろうと思っていましたが、こんな規模で展示をやっていたというのは知りませんでした。国際機関ならではと言えば毎週発行のニュースレター。翻訳者は多くがボランティアだそうですが、24か国語で毎週発行というのはちょっと信じられないくらいの規模。
ソーシャルメディアについては、最後にちょっとだけ触れられています。twitterのフォロワー数は 93%増、facebookのファン数は58%増。いずれも50周年イベントがあった第4四半期に入っての増加が顕著で、50周年イベントがひろく浸透したことが見て取れます。@ALMA_Japanの今年5月31日時点でのフォロワー数は10662、1年前が5076なので110%増ですから、まあESOと似たような増加率です(下図参照)。ちなみに国立天文台天文情報センターの@prcnaojも増加率は96%とほぼ同じ。
ここまでの統計を見て日本と違うなと思うのは、日本では真っ先に分析の材料になりそうなテレビと新聞紙の統計がないこと。新聞のほうは、全国紙があって宅配までされてくるという日本の新聞制度が独特だという話は聞いたことがありますが、あちらではあまり重要視されていないのでしょうか。国も言語も色々なので、制度もいろいろなのかもしれません。
ここまで読んで感じたのは、ESO加盟国やその他の国に対して積極的にアプローチし、世界的な規模で「ESOブランド」の確立が強く意識されていることでしょうか。
"Co-creation became the buzzword for how to better engage with the public by letting them create — a trend that ESO is pioneering. " という文言にもある通り、一方的に情報を出すだけでなく、ともに作り出すということ、大衆(public)とのかかわりを強く持つこと、そしてそのなかでESOブランドを確立していくこと、が広報活動の明確なミッションとなっています。
私も日々ALMAの広報の仕事をしていますが、目先の大量の仕事に押されて大きなビジョンにまで立ち戻れないこともしばしば。しっかり立ち止まって考える時間を作るようにしなければ。
そんなESOの2012年 annual reportが出ていました。そのうち広報関係は写真を入れて6ページ。ウェブアクセス、展示イベント、出版物などの情報がまとまっています。2012年はESO設立50周年という節目の年だったので、広報にも力が入っていました。自分のためのメモもかねて、情報と気づいたことをまとめておきます。
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| Credit: ESO |
まずはプレスリリース。年間に53のプレスリリース、103のアナウンスメント。平均して週3個のニュースを出していることになりますね。これらのうちで最も人気だったのは VISTA望遠鏡による銀河中心方向の9ギガピクセル画像。このリリースだけで70万人が見たそうで、これまでのESOの記録の3倍を超えた、と書かれています。確かに1ページへの来訪者数としては凄い数。次に人気だったのは、アルファ・ケンタウリBのまわりの地球質量惑星の発見。こちらは、本ブログの記事にもしましたが、このニュースも60万人に迫る人が見たという試算になっています。ちなみに3位は、ALMAによる糖分子の発見(20万人弱)。こちらは日本でもプレスリリースを出しましたが、確かにこれはインパクトがありました。
ここでアクセス人数の試算は、以下の式を使っています。(勉強になるなぁ)
総数 = Google Analytics × 1 + EurekAlert × 10 + Meltwater × 250
Google Analyticsはウェブサイトへのアクセス数をそのまま数えています。EurekAlertは雑誌Scienceなどを出すAAASのプレスリリース配信サービス。× 10ということは、ここに1つ記事が出ると10人が見る、ということでしょう。Meltwaterはオンラインニュースのクリッピングサービスですので、×250ということは Meltwater で拾われたオンラインニュース記事の各々を平均250人が見ている、としているわけですね。日本のウェブニュースだと×250より多いような気もしますが、小規模なニュースサイトを考慮しての値なのか、あるいは日本と欧州では事情が違うのか。今度聞いてみようと思います。で、先ほどのアクセストップ3のうち、VISTAの写真はGoogle Analyticsだけで65万。一方でアルファ・ケンタウリBのほうはMeltwaterが約35万。ウェブアクセスは18万くらいだけれどもたくさんニュースに載った、ということですね。なおESOウェブサイトの総アクセスは380万、昨年より15%増だそうです。
観測画像のリリースは年間約100枚、つまり週2枚とのこと。画像の重要性が強く意識されていることがわかります。"ESO has cemented its reputation as a recognised and respected source of top quality astronomical images."というコメントからもそれがうかがえます。
映像のリリースはESO50周年記念の "Europe to the Stars — ESO's first 50 years of Exploring the Southern Sky"、展示はやはり50周年記念のものが大きかったようです。展示は20か国50カ所
の巡回展示で、30-40万人以上の来場者があったとのこと。国際機関のやることのデカさを感じます。国際機関だからこういうイベントよりはオンラインの活動が主な広報になるんだろうと思っていましたが、こんな規模で展示をやっていたというのは知りませんでした。国際機関ならではと言えば毎週発行のニュースレター。翻訳者は多くがボランティアだそうですが、24か国語で毎週発行というのはちょっと信じられないくらいの規模。
ソーシャルメディアについては、最後にちょっとだけ触れられています。twitterのフォロワー数は 93%増、facebookのファン数は58%増。いずれも50周年イベントがあった第4四半期に入っての増加が顕著で、50周年イベントがひろく浸透したことが見て取れます。@ALMA_Japanの今年5月31日時点でのフォロワー数は10662、1年前が5076なので110%増ですから、まあESOと似たような増加率です(下図参照)。ちなみに国立天文台天文情報センターの@prcnaojも増加率は96%とほぼ同じ。
ここまでの統計を見て日本と違うなと思うのは、日本では真っ先に分析の材料になりそうなテレビと新聞紙の統計がないこと。新聞のほうは、全国紙があって宅配までされてくるという日本の新聞制度が独特だという話は聞いたことがありますが、あちらではあまり重要視されていないのでしょうか。国も言語も色々なので、制度もいろいろなのかもしれません。
ここまで読んで感じたのは、ESO加盟国やその他の国に対して積極的にアプローチし、世界的な規模で「ESOブランド」の確立が強く意識されていることでしょうか。
"Co-creation became the buzzword for how to better engage with the public by letting them create — a trend that ESO is pioneering. " という文言にもある通り、一方的に情報を出すだけでなく、ともに作り出すということ、大衆(public)とのかかわりを強く持つこと、そしてそのなかでESOブランドを確立していくこと、が広報活動の明確なミッションとなっています。
私も日々ALMAの広報の仕事をしていますが、目先の大量の仕事に押されて大きなビジョンにまで立ち戻れないこともしばしば。しっかり立ち止まって考える時間を作るようにしなければ。
2013年3月17日日曜日
一家に1枚 宇宙図2013 制作記念イベント
2007年に発表された『一家に1枚宇宙図』。私も製作委員の一人として加わり、(博士課程2年の終わりという時期にもかかわらず)2000通以上のメールのやり取りを経て完成しました。きわめて意欲的に、新しい宇宙の見方や人間や地球のルーツなどをこれでもかというくらいに盛り込みました。
その宇宙図が、大きく改訂されて今月公開されます。今回の改訂ではヒッグス粒子の記述が加わり、宇宙の始まりと素粒子の解説部分が大きく変わりました。また、この6年間の研究の進展にしたがって、系外惑星の数(200個以上から800個以上へ)や最も遠い銀河までの距離が更新され、画像もアルマ望遠鏡の観測画像など最新のものが使用されています。さらに、星の一生の記述がより詳しいものとなっており、6年前と比較してかなり(さらに!)密度が高い宇宙図が仕上がったと思います。
新しい宇宙図の公開を記念して、下記の通りイベントを行います。第I部は、私を含め宇宙図製作に関わった天文学者、美術家による新しい宇宙図の解説。第II部では、宇宙図作成メンバーと多分野の専門家を迎え、科学以外の分野から宇宙をどう見るか、宇宙図を出発点として討論します。パッと見では難解な宇宙図ですが、今回のイベントはより深く宇宙図を理解し楽しめる機会になると思います。是非お越しください。
日時:3月23日(土)
第I部 16:00-17:30
第II部 18:00-20:00
会場:ブレヒトの芝居小屋(東京都練馬区)
詳細・申し込み:天プラの特設サイト
その宇宙図が、大きく改訂されて今月公開されます。今回の改訂ではヒッグス粒子の記述が加わり、宇宙の始まりと素粒子の解説部分が大きく変わりました。また、この6年間の研究の進展にしたがって、系外惑星の数(200個以上から800個以上へ)や最も遠い銀河までの距離が更新され、画像もアルマ望遠鏡の観測画像など最新のものが使用されています。さらに、星の一生の記述がより詳しいものとなっており、6年前と比較してかなり(さらに!)密度が高い宇宙図が仕上がったと思います。
新しい宇宙図の公開を記念して、下記の通りイベントを行います。第I部は、私を含め宇宙図製作に関わった天文学者、美術家による新しい宇宙図の解説。第II部では、宇宙図作成メンバーと多分野の専門家を迎え、科学以外の分野から宇宙をどう見るか、宇宙図を出発点として討論します。パッと見では難解な宇宙図ですが、今回のイベントはより深く宇宙図を理解し楽しめる機会になると思います。是非お越しください。
日時:3月23日(土)
第I部 16:00-17:30
第II部 18:00-20:00
会場:ブレヒトの芝居小屋(東京都練馬区)
詳細・申し込み:天プラの特設サイト
2013年1月21日月曜日
講座情報:朝日カルチャーセンター横浜
更新間隔がまたあいてしまいましたが、今年もよろしくお願いします。
とりあえず、講演の情報をお知らせします。朝日カルチャーセンター横浜教室で 1-3月に行われる講座「冬の星空から始める天文学」の監修を私が行いました。冬の星空に見られるおもしろい天体たちと、それらにまつわる天文学の話題についてご紹介してゆきます。私自身も3回お話をさせていただく予定です。第1回は終了してしまいましたが、まだお申し込みを受け付けていますので、ご興味のある方は是非お越しください。詳細情報と申し込みは、上記のリンクからどうぞ。
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朝日カルチャーセンター 横浜教室 「冬の星空から始める天文学」
平松担当回
2/16 ペガスス座51番星と太陽系外惑星
3/2 ベテルギウスと年老いた星
3/30 オリオン大星雲と星形成
それぞれ 13:00-15:00
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2012年10月17日水曜日
4.3光年先の別世界
久しぶりのブログになってしまいました。プレスリリース続きだったりイベント続きだったり、まあでも広報ネタがあるということはありがたいことです。
今朝話題をさらっていたのは、ESO(欧州南天天文台)がプレスリリースをした『αケンタウリBに惑星発見!』というニュース。しばらくESOのウェブサイトにつながりにくいくらいだったので、世界から相当数のアクセスを稼いだことでしょう。
太陽に最も近い恒星系(距離4.3光年)であるαケンタウリは、αケンタウリA、αケンタウリB、プロキシマ・ケンタウリからなる3連星。名前からわかる通り、その中で2番目に明るい星がαケンタウリBです。αケンタウリBは、太陽よりちょっと暗めで有効温度は5,200K(太陽は約5,800K)、質量は太陽の93%。ほとんど太陽と同じ性質といってもいいでしょう。そんな星のまわりに見つかった惑星が、地球とほとんど同じサイズ(質量が地球の1.13倍)。こんなに地球に近い位置にある太陽に似た星に、地球に似た惑星が!という驚きが世界を駆け巡りました。
この惑星、一応の名前はαケンタウリBb。太陽系外惑星の名前は、中央の星の名前+b, c, d, と見つかった順についていきます。αケンタウリBのまわりに最初に見つかった惑星なので、αケンタウリBbというわけ(わかりにくい)。この惑星が地球と大きく違うところ、それは中央の星(主星)のすぐ近くにあること。太陽と地球の間の距離は約1億5000万km(1au)ですが、αケンタウリBとその惑星の間の距離はわずかに600万km(0.04 au)。太陽と水星の間の距離が約5800万kmなので、その1/10という主星のすぐそばを回っています。公転周期は3.236日。つまり1年が3.236日。惑星の温度は今回の観測では求まっていませんが、灼熱の惑星でしょう。住むのは、ちょっと大変。
こんなに主星の近くにある惑星は、少なくとも現在の望遠鏡技術では写真に収めることができません。真ん中の星が明るすぎて、惑星の光がかき消されてしまうのです。『何kmも先の野球場の照明のすぐ近くに、小さなLEDを一つ置くようなもの』 という話をESOの人がしていましたが、これはいい例えだと思います。中央の星の光を隠して周囲の暗い天体を写し取るコロナグラフという技術も発達はしてきており、惑星を直接見つけることもできるようになってきましたが、それでもまだまだ大変です。
この惑星が発見されたのは、ドップラー法という方法。主星のまわりを惑星がぐるぐる回ると、それに伴って主星もすこし揺さぶられます。もう少し物理的に言えば、主星と惑星はその系の共通重心のまわりを公転しているので、共通重心から見ると主星も少しふらついているわけですね。ドップラー法では、主星の光を非常に細かく分光し、星のふらつきに伴う光のドップラー効果を測定します。太陽もそうですが、星の光をスペクトルに分解すると吸収線が見えます。この吸収線が、時間に伴って少し青い方や赤い方(波長の短い方や長い方)に動くのを精密に測定し、その振れ幅やスピードから星のまわりにある見えない惑星の存在とその質量を言い当てるのです。
周りを回る惑星が小さければ、当然主星の動きも小さくなります。今回の星は地球とほとんど同じサイズなので、主星の動きも微小。その速度はわずかに秒速51cm。時速1.8kmですから、人が歩く半分くらいの速度しかないαケンタウリBの動きを捉えたことになります。これを捉えたのは、ESOがチリ・ラシヤ天文台に設置した3.6m望遠鏡と、超精密分光器HARPS。High Accuracy Radial velocity Planet Searcherという名前は、日本語にすれば高精度視線速度測定惑星探索装置、という感じでしょうか。その名の通りドップラー法による太陽系外惑星発見のために作られた装置なので、その面目躍如ということですね。
そんな専用装置を使っても、この星のわずかな動きを捉えるのは大変。Natureに掲載予定の論文を見ると、様々なノイズを除去してようやくシグナルを捉えたことがわかります。ノイズの由来は、
ともあれ、太陽系にも、そのお隣の星にも惑星があるとなれば、もうそこらじゅうの星に惑星があってもおかしくない、とついつい考えてしまいます。4.3光年先まで実際に飛んでいくにはまだまだ技術革新が必要ですが、惑星の普遍性を考える上では大きな意義のある発見だったと思います。
今朝話題をさらっていたのは、ESO(欧州南天天文台)がプレスリリースをした『αケンタウリBに惑星発見!』というニュース。しばらくESOのウェブサイトにつながりにくいくらいだったので、世界から相当数のアクセスを稼いだことでしょう。
太陽に最も近い恒星系(距離4.3光年)であるαケンタウリは、αケンタウリA、αケンタウリB、プロキシマ・ケンタウリからなる3連星。名前からわかる通り、その中で2番目に明るい星がαケンタウリBです。αケンタウリBは、太陽よりちょっと暗めで有効温度は5,200K(太陽は約5,800K)、質量は太陽の93%。ほとんど太陽と同じ性質といってもいいでしょう。そんな星のまわりに見つかった惑星が、地球とほとんど同じサイズ(質量が地球の1.13倍)。こんなに地球に近い位置にある太陽に似た星に、地球に似た惑星が!という驚きが世界を駆け巡りました。
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| αケンタウリBとそれを回る惑星の想像図。 Credit: ESO/L. Calçada/N. Risinger (skysurvey.org) |
この惑星、一応の名前はαケンタウリBb。太陽系外惑星の名前は、中央の星の名前+b, c, d, と見つかった順についていきます。αケンタウリBのまわりに最初に見つかった惑星なので、αケンタウリBbというわけ(わかりにくい)。この惑星が地球と大きく違うところ、それは中央の星(主星)のすぐ近くにあること。太陽と地球の間の距離は約1億5000万km(1au)ですが、αケンタウリBとその惑星の間の距離はわずかに600万km(0.04 au)。太陽と水星の間の距離が約5800万kmなので、その1/10という主星のすぐそばを回っています。公転周期は3.236日。つまり1年が3.236日。惑星の温度は今回の観測では求まっていませんが、灼熱の惑星でしょう。住むのは、ちょっと大変。
こんなに主星の近くにある惑星は、少なくとも現在の望遠鏡技術では写真に収めることができません。真ん中の星が明るすぎて、惑星の光がかき消されてしまうのです。『何kmも先の野球場の照明のすぐ近くに、小さなLEDを一つ置くようなもの』 という話をESOの人がしていましたが、これはいい例えだと思います。中央の星の光を隠して周囲の暗い天体を写し取るコロナグラフという技術も発達はしてきており、惑星を直接見つけることもできるようになってきましたが、それでもまだまだ大変です。
この惑星が発見されたのは、ドップラー法という方法。主星のまわりを惑星がぐるぐる回ると、それに伴って主星もすこし揺さぶられます。もう少し物理的に言えば、主星と惑星はその系の共通重心のまわりを公転しているので、共通重心から見ると主星も少しふらついているわけですね。ドップラー法では、主星の光を非常に細かく分光し、星のふらつきに伴う光のドップラー効果を測定します。太陽もそうですが、星の光をスペクトルに分解すると吸収線が見えます。この吸収線が、時間に伴って少し青い方や赤い方(波長の短い方や長い方)に動くのを精密に測定し、その振れ幅やスピードから星のまわりにある見えない惑星の存在とその質量を言い当てるのです。
周りを回る惑星が小さければ、当然主星の動きも小さくなります。今回の星は地球とほとんど同じサイズなので、主星の動きも微小。その速度はわずかに秒速51cm。時速1.8kmですから、人が歩く半分くらいの速度しかないαケンタウリBの動きを捉えたことになります。これを捉えたのは、ESOがチリ・ラシヤ天文台に設置した3.6m望遠鏡と、超精密分光器HARPS。High Accuracy Radial velocity Planet Searcherという名前は、日本語にすれば高精度視線速度測定惑星探索装置、という感じでしょうか。その名の通りドップラー法による太陽系外惑星発見のために作られた装置なので、その面目躍如ということですね。
そんな専用装置を使っても、この星のわずかな動きを捉えるのは大変。Natureに掲載予定の論文を見ると、様々なノイズを除去してようやくシグナルを捉えたことがわかります。ノイズの由来は、
- 装置の不定性:追尾誤差など。0.7m/s程度の寄与。
- αケンタウリB星全体の振動:ただしこれは5分以下の周期のものなので、10分間の露光時間で写真を撮ると平均化されて見えなくなります。
- αケンタウリBの表面の運動:星の表面は味噌汁のように対流を起こしているので、常にガスが湧き上がってきたり沈んで行ったりしています。これが速度の測定に誤差をもたらします。αケンタウリBの場合、0.6m/s位の寄与があるそうです。
- αケンタウリBの自転効果:星は自転しているので、地球から見て星の片側は地球に近づき、反対側は地球から遠ざかります。星全体の光を見てやればこれは相殺しますが、例えば片側に黒点があったらそちら側の光が暗くなり、反対側の速度を持つ光が優勢になります。ただ黒点も星の自転と一緒に動いていくので、長く観測していれば星の自転と同じ周期(αケンタウリBの場合は、38.7日)で変動するのが見えてきます。
- 星表面の磁場活動:太陽は11年周期で活動度が変動しますが、それによって黒点の数がかわります。黒点内部はガスが垂直方向に運動しているので、これが星の速度測定に影響します。
- 連星の効果:αケンタウリBはαケンタウリAと79年の周期でお互いのまわりを回っています。これに由来する星の動きを取り除かないと、惑星による小さなふらつきは見えません。
- αケンタウリAの光の漏れ込み:αケンタウリAとBは非常に近いので、Bの光を測っているつもりでもAからの光が漏れこんできます。特に観測条件が良くない(大気が安定していない)とこれが顕著なので、そんなデータは捨ててしまいます。
- 地球の自転速度の効果:地球は太陽の周りを回っていますので、その動きに起因するドップラー効果も起こります。このため、目的の星の位置を正確に把握して地球がその星に対してあたかも止まっているように見えるように、速度の補正をしてやらなくていは行けません。星の位置決定精度が悪いと、誤差が生じます。
ともあれ、太陽系にも、そのお隣の星にも惑星があるとなれば、もうそこらじゅうの星に惑星があってもおかしくない、とついつい考えてしまいます。4.3光年先まで実際に飛んでいくにはまだまだ技術革新が必要ですが、惑星の普遍性を考える上では大きな意義のある発見だったと思います。
2012年8月19日日曜日
感情を揺り動かしてこその科学
読売新聞編集委員 知野恵子さんによる『「情」に訴える宇宙開発』 という論考が、Yomiuri Onlineに掲載されていました(7月27日に読売新聞に掲載)。アルマ望遠鏡プロジェクトの広報が仕事の私はいつも「科学広報は触れる人の感情を揺すぶってナンボ」だと思っているので、これはちょっと気になる記事でした。
詳細はリンク先をお読みいただければよいのですが、要は宇宙ステーション向け貨物船「こうのとり」や探査機「はやぶさ」、準天頂衛星「みちびき」の広報において宇宙機の擬人化が行われ、それによって触れる人の感情移入を誘い、『知らず知らずのうちに応援団になっている。』ということが紹介されています。とはいってもこれを一方的に批判したり賞賛したりというわけではなくて、懸念も利点も述べたうえで、うまく使いましょうね、という内容になっています。
懸念として挙げられているのは、以下の点。
擬人化については、個人的にはやりたいところ(やれるところ)はやればいいし、 やらないという選択もありだろうと思います。twitterで「はやぶさ」「あかつき」「イカロス」の擬人化ツイートを見ても、うまくやってる時もあれば「それはちょっと違うんじゃないの」と思うときもありました。現に、イカロスについていた2機のカメラの擬人化ツイートは、なんとなく見てられなくなってフォローを外してしまいましたし。僕にとっては少し不快に思えたからフォローを外したんですが、今となってはどんな点が不快に感じたのか忘れてしまいました。ツイートに含まれる情報量が少なくて、本当に会話メインになってたからだったかなぁ。こういうのはちゃんと書き留めておくべきでしたね。アルマ望遠鏡については、さしあたり擬人化広報はやらないつもりです。間口を広げる一つの方法として擬人化が有効な場合があるのはわかるのですが、なかなか難しそうなので。
さて冒頭に「科学広報は感情を揺すぶってナンボ」と書きましたが、これはこういうことです。以前、池袋のプラネタリウム「満天」を見に行った時のこと。その時上映されていたのはアメリカ自然史博物館が製作した「コズミック・コリジョンズ」だったと思いますが、上映が終わって出ていくときに「あー、人生観変ったわー」と後ろの人が行っていたのが耳に入ったのです。それを聞いて僕は、科学広報の目指すべきところのひとつはコレだな、と思ったわけです。科学は小さな発見や前進を積み重ねて大きく進展してきました。科学広報で重要な役割を占める「研究結果のプレスリリース」はそのひとつひとつを伝えていくわけですが、これ単体ではなかなか広く浸透しないし記憶にも残らない。なぜか。それは多分、研究者なら前提条件として持っているその研究の「文脈」がうまく伝えられてないからだろうと思うわけです。天文学なら天文学という大きな物語の中で、その発見がどういう位置づけを持っているのか。研究者はなんでそのテーマに興味を持ったのか。そういうストーリーをきちんと提示して、触れた人の人生観や世界観にちょっとだけ変革をもたらすこと、これが僕の目指したい科学広報です。そのストーリーが多くの人の「血となり肉となる」こと、ここまでやって初めて「科学が進展する」と言えるのだと僕は思うからです。実際プレスリリースの準備に関わると、なかなかこれが難しいことだ、というのはわかるのですけどね。
ストーリーを伝えるのに必要以上に話を「盛って」はいけないですし、僕もこれまでの仕事の中では反省すべき点もあります。 あと、「感情を揺すぶってナンボ」というは「この発見がこういう技術に結びつく」「この発見はあの病気を治す手がかりとなる」という文脈で語れない天文学特有のものかも知れませんので、他の分野ではいろいろほかの伝え方もあることでしょう。
折しも、アメリカの国立天文学研究機関が大きな予算カットといくつかの大望遠鏡の運用停止を言い渡されたというニュースが入ってきたところでした。こうした研究施設でどんな成果が出ていたか、それがどれだけ多くの人に本当の意味で受け入れられていたかということも、こういう危機的な状況では試されることでしょう。擬人化とはちょっと違う意味でどれだけ「情に訴え」られたか。広報の評価というとすぐ「新聞やテレビにどれだけ取り上げられたか」という話になってしまうのですが、それはあくまで手段。その先にどれだけ届いたかというのは現段階ではなかなか評価が難しいですが、そこを目指して活動していかなければ、と思っている次第です。
詳細はリンク先をお読みいただければよいのですが、要は宇宙ステーション向け貨物船「こうのとり」や探査機「はやぶさ」、準天頂衛星「みちびき」の広報において宇宙機の擬人化が行われ、それによって触れる人の感情移入を誘い、『知らず知らずのうちに応援団になっている。』ということが紹介されています。とはいってもこれを一方的に批判したり賞賛したりというわけではなくて、懸念も利点も述べたうえで、うまく使いましょうね、という内容になっています。
懸念として挙げられているのは、以下の点。
しかし、全てのプロジェクトが擬人化されて、「君」や「ちゃん」づけで呼ばれるようになっては気味が悪い。情に訴えるからと言って、専門家の技術評価や、国の政策や計画にふさわしいかどうかの検討が手薄になっては困る。まあ、少なくとも現状のプロジェクト選定や評価のプロセスであればこれはそんなに気にすることではないんじゃないでしょうか。そういう評価をしている「専門家」たちは、プロジェクトについて十分に知らないまま感情を移入してしまうような人たちではないと思うので。JAXAが始めた募金はある意味ではファン投票的な側面もあるので、直接興味のあるプロジェクトを応援できる手段ができたのはいいですが、これだけでプロジェクト選定が行われては困ります。「他の立候補者知らないから、政策はよく知らないけど名前を知ってるからタレント候補に投票しておこう」という投票行動が危険なのと同じこと。
擬人化については、個人的にはやりたいところ(やれるところ)はやればいいし、 やらないという選択もありだろうと思います。twitterで「はやぶさ」「あかつき」「イカロス」の擬人化ツイートを見ても、うまくやってる時もあれば「それはちょっと違うんじゃないの」と思うときもありました。現に、イカロスについていた2機のカメラの擬人化ツイートは、なんとなく見てられなくなってフォローを外してしまいましたし。僕にとっては少し不快に思えたからフォローを外したんですが、今となってはどんな点が不快に感じたのか忘れてしまいました。ツイートに含まれる情報量が少なくて、本当に会話メインになってたからだったかなぁ。こういうのはちゃんと書き留めておくべきでしたね。アルマ望遠鏡については、さしあたり擬人化広報はやらないつもりです。間口を広げる一つの方法として擬人化が有効な場合があるのはわかるのですが、なかなか難しそうなので。
さて冒頭に「科学広報は感情を揺すぶってナンボ」と書きましたが、これはこういうことです。以前、池袋のプラネタリウム「満天」を見に行った時のこと。その時上映されていたのはアメリカ自然史博物館が製作した「コズミック・コリジョンズ」だったと思いますが、上映が終わって出ていくときに「あー、人生観変ったわー」と後ろの人が行っていたのが耳に入ったのです。それを聞いて僕は、科学広報の目指すべきところのひとつはコレだな、と思ったわけです。科学は小さな発見や前進を積み重ねて大きく進展してきました。科学広報で重要な役割を占める「研究結果のプレスリリース」はそのひとつひとつを伝えていくわけですが、これ単体ではなかなか広く浸透しないし記憶にも残らない。なぜか。それは多分、研究者なら前提条件として持っているその研究の「文脈」がうまく伝えられてないからだろうと思うわけです。天文学なら天文学という大きな物語の中で、その発見がどういう位置づけを持っているのか。研究者はなんでそのテーマに興味を持ったのか。そういうストーリーをきちんと提示して、触れた人の人生観や世界観にちょっとだけ変革をもたらすこと、これが僕の目指したい科学広報です。そのストーリーが多くの人の「血となり肉となる」こと、ここまでやって初めて「科学が進展する」と言えるのだと僕は思うからです。実際プレスリリースの準備に関わると、なかなかこれが難しいことだ、というのはわかるのですけどね。
ストーリーを伝えるのに必要以上に話を「盛って」はいけないですし、僕もこれまでの仕事の中では反省すべき点もあります。 あと、「感情を揺すぶってナンボ」というは「この発見がこういう技術に結びつく」「この発見はあの病気を治す手がかりとなる」という文脈で語れない天文学特有のものかも知れませんので、他の分野ではいろいろほかの伝え方もあることでしょう。
折しも、アメリカの国立天文学研究機関が大きな予算カットといくつかの大望遠鏡の運用停止を言い渡されたというニュースが入ってきたところでした。こうした研究施設でどんな成果が出ていたか、それがどれだけ多くの人に本当の意味で受け入れられていたかということも、こういう危機的な状況では試されることでしょう。擬人化とはちょっと違う意味でどれだけ「情に訴え」られたか。広報の評価というとすぐ「新聞やテレビにどれだけ取り上げられたか」という話になってしまうのですが、それはあくまで手段。その先にどれだけ届いたかというのは現段階ではなかなか評価が難しいですが、そこを目指して活動していかなければ、と思っている次第です。
2012年7月16日月曜日
月と金星と木星と一等星
SKA建設地決定のニュースの詳細を書くと書いて一か月書いていませんでしたが、その前に今朝の衛星惑星一等星会合の写真が撮れたので、そちらをご紹介します。
月が昇ってくるときには東側は雲に覆われていて、月の位置がなんとかわかるくらいでした。が、時間がたつにつれて月は雲の薄い部分に昇っていき、同時に木星や金星も見え始めました。午前3時30分くらいに撮影したのが上の写真です。おぼろに輝く月齢26の細い月、その右に見えるのが-4.5等の金星、上にあるのが-2.1等の木星、金星の少し右には、おうし座の顔の位置にあるアルデバラン(0.9等)も写っています。薄雲のせいもありますが、一等星をはるかにしのぐ明るさの天体がこれだけの範囲に集合するというのは見ごたえがあります。
見ごたえは、この4つの天体までの距離を比べてみるとさらに増すかもしれません。
夜が明けてくると、きれいな朝焼けも見ることができました。日中は暑くなりましたが、この時間はまだ気持ちの良い朝でした。
(等級と距離はすべて、ステラナビゲータ9による)
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| 月と金星、木星、アルデバラン (2012.07.16 午前3:30頃.、Canon EOS Kiss X3 + Canon EFS 18-135mm、1.6秒露出、ISO 800、f/5.6) |
見ごたえは、この4つの天体までの距離を比べてみるとさらに増すかもしれません。
- 地球 - 月: 40万 km
- 地球 - 金星:0.47天文単位 (7000万 km)
- 地球 - 木星:5.66天文単位 (8億4700万 km)
- 地球 - アルデバラン:65.1光年 (62京 km)
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| 朝焼けの中の月と金星 (2012.07.16 午前4:10.、Canon EOS Kiss X3 + Canon EFS 18-135mm、1/30秒露出、ISO 800、f/4.5) |
(等級と距離はすべて、ステラナビゲータ9による)
2012年5月28日月曜日
Square Kilometer Array 建設サイト決定 (1)
SpaceX社のドラゴン宇宙船が民間の宇宙船としては初めて国際宇宙ステーションにドッキングしたのが5月25日夜。僕もNASA TVでの中継に見入っていたその時、ひっそりと、でもとても大きなニュースが入ってきました。アルマ望遠鏡が観測するものよりも低い周波数の電波で圧倒的な感度と解像度をもつ Square Kilometer Array (スクエア・キロメートル・アレイ、SKA)の建設地が、南アフリカとオーストラリアの両方に分割建設ということになったというニュースでした。これにはびっくり。個人的な参考のために少し調べてみたので、それをここに残しておきます。今回はSKAの概要とSKAが目指す天文学について紹介し、建設サイトのことは次回掲載します。僕は一応電波天文学を専門としていますが、SKAが観測する電波よりも100倍以上周波数の高い電波を観測しているのでSKA自身には関係していなくて、ここにあげた情報はすべてウェブサイト等から集めたものです。
まずSKAとは何か。名前の通り、たくさんの望遠鏡の集光面積の合計が1平方キロメートル(=100万平方メートル)に及ぶ巨大な電波望遠鏡群です。2016年建設開始、2024年科学観測開始を目指しているとのこと。SKAが観測する電波は70MHz - 10 GHz。巨大電波望遠鏡と言えば僕も関わっているアルマ望遠鏡がありますが、その観測周波数は30 - 950 GHz。アルマ望遠鏡はSKAよりずっと周波数の高い(波長が短い)電波を観測するので、アルマ望遠鏡とSKAは、ライバルというよりは相補的な望遠鏡と言えるでしょう。
集光面積が大きいということは、それだけたくさん電波を集めることができて感度が良いということ。同じような周波数の電波を観測するアメリカのJansky VLA は口径25mのアンテナ27台なので、集光面積は単純計算で約13,000平方メートル。SKAの100万平方メートルとは二桁違います。また、50 MHz - 1.4 GHzの電波を観測できるインドのGiant Meterwave Radio Telescope (GMRT)は45mのアンテナ30台で、集光面積は約48,000平方メートル。全然SKAには及びません。つまり、SKAはダントツにデカいということですね。
SKAには現在、オーストラリア・カナダ・中国・イタリア・ニュージーランド・オランダ・南アフリカ・イギリスの8か国が正式メンバーとして参加しています。本部はイギリス・マンチェスターのジョドレルバンク天文台に設置されています。日本は、正式にお金を払って参加、という決定はまだしていません。
SKAは数十MHzから10 GHzの電波を観測するのですが、この周波数帯は人間社会でもよく使われています。テレビやラジオ、携帯電話、無線通信。高感度の電波望遠鏡を作って宇宙から来る微弱な電波に耳を澄ませようとしても、こうした人工電波が邪魔をしてしまっては観測を行うことができません。つまりこの望遠鏡を建設する場所は、できるだけ人工電波が少ない場所がよいというわけです。そこで名乗りを上げたのが、オーストラリア・ニュージーランド連合と南アフリカを中心とするアフリカ諸国でした。
SKAの建設費は約1500億円。その全部が建設地に落ちるわけではないですが、それでも一大事業には変わりありません。特にアフリカにとってはこのような世界的な科学事業を誘致できれば関連する技術開発企業の誘致や投資を呼び込むこともできるわけで、SKAの誘致には非常に熱心でした。まあSKAを使う天文学者の側とすれば、観測環境が良いこと、観測所へのアクセスとか治安とかが確保されていること、というような条件がそろっていれば、オーストラリアでも南アフリカでもそれほど違いはないと感じます。いずれにしてもアルマ望遠鏡と同じ南の空を重点的に調べることができますし。
ではこのSKAでどんな天文学をやるのか。ウェブサイトによると5つのキープロジェクトが挙げられています。
というわけで次回は、ちょっと複雑なことになってしまったSKA建設地のことについて紹介します。
まずSKAとは何か。名前の通り、たくさんの望遠鏡の集光面積の合計が1平方キロメートル(=100万平方メートル)に及ぶ巨大な電波望遠鏡群です。2016年建設開始、2024年科学観測開始を目指しているとのこと。SKAが観測する電波は70MHz - 10 GHz。巨大電波望遠鏡と言えば僕も関わっているアルマ望遠鏡がありますが、その観測周波数は30 - 950 GHz。アルマ望遠鏡はSKAよりずっと周波数の高い(波長が短い)電波を観測するので、アルマ望遠鏡とSKAは、ライバルというよりは相補的な望遠鏡と言えるでしょう。
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| SKA完成予想CG credit: SKA Organisation/Swinburne Astronomy Productions |
集光面積が大きいということは、それだけたくさん電波を集めることができて感度が良いということ。同じような周波数の電波を観測するアメリカのJansky VLA は口径25mのアンテナ27台なので、集光面積は単純計算で約13,000平方メートル。SKAの100万平方メートルとは二桁違います。また、50 MHz - 1.4 GHzの電波を観測できるインドのGiant Meterwave Radio Telescope (GMRT)は45mのアンテナ30台で、集光面積は約48,000平方メートル。全然SKAには及びません。つまり、SKAはダントツにデカいということですね。
SKAには現在、オーストラリア・カナダ・中国・イタリア・ニュージーランド・オランダ・南アフリカ・イギリスの8か国が正式メンバーとして参加しています。本部はイギリス・マンチェスターのジョドレルバンク天文台に設置されています。日本は、正式にお金を払って参加、という決定はまだしていません。
SKAは数十MHzから10 GHzの電波を観測するのですが、この周波数帯は人間社会でもよく使われています。テレビやラジオ、携帯電話、無線通信。高感度の電波望遠鏡を作って宇宙から来る微弱な電波に耳を澄ませようとしても、こうした人工電波が邪魔をしてしまっては観測を行うことができません。つまりこの望遠鏡を建設する場所は、できるだけ人工電波が少ない場所がよいというわけです。そこで名乗りを上げたのが、オーストラリア・ニュージーランド連合と南アフリカを中心とするアフリカ諸国でした。
SKAの建設費は約1500億円。その全部が建設地に落ちるわけではないですが、それでも一大事業には変わりありません。特にアフリカにとってはこのような世界的な科学事業を誘致できれば関連する技術開発企業の誘致や投資を呼び込むこともできるわけで、SKAの誘致には非常に熱心でした。まあSKAを使う天文学者の側とすれば、観測環境が良いこと、観測所へのアクセスとか治安とかが確保されていること、というような条件がそろっていれば、オーストラリアでも南アフリカでもそれほど違いはないと感じます。いずれにしてもアルマ望遠鏡と同じ南の空を重点的に調べることができますし。
ではこのSKAでどんな天文学をやるのか。ウェブサイトによると5つのキープロジェクトが挙げられています。
- 銀河の誕生と進化、宇宙膨張
宇宙に存在するガスの主要構成要素である水素原子から放射される周波数1.42 GHzの電波を観測。 銀河の外縁部や銀河間空間にある水素ガスの分布を明らかにし、これらがどのように銀河に取り込まれて銀河が成長していくのかを調べます。また、重力レンズ効果を使って宇宙の中のダークマターの分布を調べ、それと宇宙膨張の関係を探ります。 - パルサー・ブラックホール周囲の強重力場での重力理論検証
重力の理論としては、アインシュタインの一般相対性理論が広く受け入れられています。パルサー(中性子星)やブラックホールなど非常に重い天体のごく近くは、一般相対性理論で予言される様々な効果が現れるので、その検証に適しています。パルサーは非常に規則正しく電波を出しているので、その電波を観測することでパルサーの運動を詳しく調べ、重力理論を検証します。 - 宇宙磁場の起源と進化
地球が磁石のはたらきを持っているのと同様に、宇宙にも普遍的に磁場(磁石の力)が存在していています。この磁場は星の形成などにおいてもとても重要な役割を持っていますが、実は磁場の測定はとても難しいのです。磁場中を電磁波が飛んでくるときに偏光面が回転する「ファラデー回転」という現象を観測し、宇宙の磁場地図を作ります。星が生まれてくるガスの雲のなかでどのように磁場が分布しているかを調べることは、星の誕生のメカニズムの理解にとても重要です。 - 惑星の形成と地球外知的生命
太陽系外にもたくさんの惑星が見つかっていますが、その多様な惑星系の形成メカニズムはまだ明らかにはなっていません。宇宙には形成途上にある惑星系も多くあるので、SKAはこれらを観測し、惑星形成過程をつぶさに観測します。(ただし、SKAはオリジナルの案では周波数30GHzまで観測する予定だったようですが、現在はとりあえず10GHz以下までしか観測しないということで、それだと電波も弱く解像度も最高レベルにはならないので、この点どこまでSKAで迫れるかよくわかりません。まあこのあたりはアルマ望遠鏡がカバーする範囲ではあります。)
また、SKAは驚異的な感度を持っているので、もしほかの星に知的生命体が存在していて電波を通信のために使っているとしたら、その電波をキャッチできるかもしれません。計算上、人間が使っているのと同じくらいの強度のテレビ電波であれば数光年先の距離でも受信できるという計算です。もちろん、相手が『知的生命体との通信』を目指してもっと強く電波を出していれば、より簡単に受信できるでしょう。これまでの地球外知的生命探査(SETI)よりも1000倍も広い範囲(主に奥行き方向に広くなる)をターゲットにできます。 - 宇宙の暗黒時代
ビッグバンのあと宇宙が冷えてから、星や銀河が宇宙に広がって宇宙が熱せられる間の期間を『宇宙の暗黒時代 (The Dark Age)』と呼びます。最初の星や最初の銀河はこの暗黒時代に作られるわけですが、その様子はよくわかっていません。暗黒時代に満ちている中性の水素原子が出す電波はSKAがカバーする観測周波数帯域にありますので、SKAが活躍できる分野の一つです。
というわけで次回は、ちょっと複雑なことになってしまったSKA建設地のことについて紹介します。
2012年5月1日火曜日
日食講演会@パナソニックセンター
5月21日に迫った金環日食を前にして、ゴールデンウィーク中に東京有明のパナソニックセンター東京のキッズウィーク2012「太陽が金の環になる日のヒミツ!」が開催されています。1日3回、7日間計21回の講演のうち3回分(4/28に1回、4/29に2回)を担当しました。
金環日食の話がもちろんメインなのですが、単に日食の話をするだけだと面白くないし他のところでも聞けるので、僕の話の中では太陽系の大きさと地球の小ささ、惑星の誕生の話を絡めて、いかに多くの偶然の上で今回のような日食が起きるのか、ということを紹介しました。タイトルは「太陽系の誕生と奇跡の金環日食」。もちろん、アルマ望遠鏡の話も織り込みました。
今回のトークのキモは、 太陽系を200億分の一に縮小し、太陽系のスケール感を実感してもらうことでした。これの元ネタは、僕が大学生の頃からお手伝いをしていた科学技術館 科学ライブショー「ユニバース」の中の一コーナー、『実感太陽系』です。200億分の一に縮小すると太陽は直径約7cmに、地球は直径約0.65mmになります。その間の距離は7.5m。この縮尺で小さくした冥王星までを、パナソニックセンター周辺に重ねたのが下の図。ユニバースでもそうですが、こういう地図に載せると太陽系が如何にスカスカかというのが実感できるはずです。
来場者はほとんどが小学校低学年・中学年のお子さんたちとその親御さんたち、という構成。実感太陽系ではクイズも交えて話を進めたことで、飽きずに45分間の講演を聞いてもらえたかな、と思います。せっかく日食を観察するなら、「あー欠けてる、環になってる」だけではなくて、地球と太陽の間にちょうどいい大きさの月が入っているという「奥行き」を感じてもらいたいし、さらにはそういう配置の妙や太陽系の成り立ちなんかにも興味を持つきっかけになったらいいなと思っています。実際、講演後には太陽系の成り立ちや太陽系外惑星についての質問もいくつも出てきたので、目論見は外れてなかったかなと。
Ustreamの録画(4/29の3回目)もありますので、もしご興味のある方はぜひ。
金環日食の話がもちろんメインなのですが、単に日食の話をするだけだと面白くないし他のところでも聞けるので、僕の話の中では太陽系の大きさと地球の小ささ、惑星の誕生の話を絡めて、いかに多くの偶然の上で今回のような日食が起きるのか、ということを紹介しました。タイトルは「太陽系の誕生と奇跡の金環日食」。もちろん、アルマ望遠鏡の話も織り込みました。
今回のトークのキモは、 太陽系を200億分の一に縮小し、太陽系のスケール感を実感してもらうことでした。これの元ネタは、僕が大学生の頃からお手伝いをしていた科学技術館 科学ライブショー「ユニバース」の中の一コーナー、『実感太陽系』です。200億分の一に縮小すると太陽は直径約7cmに、地球は直径約0.65mmになります。その間の距離は7.5m。この縮尺で小さくした冥王星までを、パナソニックセンター周辺に重ねたのが下の図。ユニバースでもそうですが、こういう地図に載せると太陽系が如何にスカスカかというのが実感できるはずです。
来場者はほとんどが小学校低学年・中学年のお子さんたちとその親御さんたち、という構成。実感太陽系ではクイズも交えて話を進めたことで、飽きずに45分間の講演を聞いてもらえたかな、と思います。せっかく日食を観察するなら、「あー欠けてる、環になってる」だけではなくて、地球と太陽の間にちょうどいい大きさの月が入っているという「奥行き」を感じてもらいたいし、さらにはそういう配置の妙や太陽系の成り立ちなんかにも興味を持つきっかけになったらいいなと思っています。実際、講演後には太陽系の成り立ちや太陽系外惑星についての質問もいくつも出てきたので、目論見は外れてなかったかなと。
Ustreamの録画(4/29の3回目)もありますので、もしご興味のある方はぜひ。
2012年4月17日火曜日
いろいろな目で見るフォーマルハウト
4月12日、昨年9月から始まったアルマ望遠鏡の科学観測の最初の成果がプレスリリースされました(僕はその広報担当なので、「されました」というのは変な感じですが)。リリース翌日にはYahoo!のトップにも掲載していただいて、NHK BSニュースでも流れたようなのでご存知の方もいらっしゃるかと思います。この研究の詳しい中身はリリース本文をお読みいただくとして、ここではアルマ望遠鏡以外の望遠鏡で見たフォーマルハウトの姿をご紹介したいと思います。
まず、今回リリースされたアルマ望遠鏡の電波観測画像とハッブル宇宙望遠鏡による可視光の画像がこちら。
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| ALMA (ESO/NAOJ/NRAO). Visible light image: the NASA/ESA Hubble Space Telescope |
- ここではハッブルの写真に青色、アルマの写真にオレンジ色を割り当てて疑似カラー画像を作っています。電波は人間の目には見えないので、実際こんな色で見えるわけではありません。
- ハッブルの画像:フォーマルハウト本体がまぶしすぎるので、マスクをしています(コロナグラフ:中央の黒くなっている部分)。中心部から放射状にのびている小さい粒々は、このマスクから漏れてくる光が映ったものなので、ここに実際にこんな構造があるわけではありません。
- アルマの画像:右側しかオレンジ色の部分がありませんが、アルマの視野が狭く、こちら側半分だけしか観測できていないので、こんな風になっています。きっと反対側の環も電波をだしていることでしょう。フォーマルハウトそのものも、強い電波を出していることがわかります。
過去の観測はどんなだったか。下の写真をご覧いただければ、喜びに打ち震える天文学者の気分も少しはご理解いただけるでしょうか。
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| "Fomalhaut Circumstellar Disk" Credits: NASA/JPL-Caltech/K. Stapelfeldt (JPL) |
17世紀初めにガリレオ・ガリレイが人類で初めて望遠鏡で土星を見たとき、「土星には耳がある」と観察記録を残したといわれています。土星にあるのは耳ではなくて環であることは、その後の望遠鏡の改良によって広く知られるようになりました。上のフォーマルハウトの画像もまさにそんな感じ。「耳」から「環」へ、ガリレオから約400年後の人類は電波観測で同じ道をたどっているのかもしれません。
実はアルマの画像がリリースされる前日、ハーシェル赤外線宇宙望遠鏡からもフォーマルハウトの観測結果が公表されました。アルマの広報担当とハーシェルの広報担当は別に連絡を取り合っていたりはしないので、今回ほぼ同時期にリリースすることになったのは全くの偶然。「なんてタイミングだ!」と世界中に散らばるアルマ望遠鏡の広報担当は一同とてもびっくりしました。
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| "Herschel spots comet massacre around nearby star" Credits: ESA/Herschel/PACS/Bram Acke, KU Leuven, Belgium |
何か結論のあるブログエントリではないんですが、いろいろな波長で同じ天体を観測することによって、たとえばその天体の温度を求めたりすることができます。アルマだけじゃなくていろんな波長を観測できるいろんな望遠鏡で宇宙を見ることで、よりたくさんの情報を引き出せる、ということです。このブログでも適宜そんな成果を紹介していきたいと思います。
※2012.04.18 追記
なんでSMAで観測しないんだろう、と思っていましたが、 感度が全然違うことを忘れていました。アルマの観測はフォーマルハウトを140分間観測した結果ですが、SMAで同じ時間観測した場合と比べるとノイズレベルが40倍くらい違います。SMAの感度では、この環の一番明るいところがさらに3倍明るかったらやっとうっすらと電波写真に写る程度。こりゃSMAで頑張る気にもならないですね。やっぱりアルマの感度はすごい。
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