まずSKAとは何か。名前の通り、たくさんの望遠鏡の集光面積の合計が1平方キロメートル(=100万平方メートル)に及ぶ巨大な電波望遠鏡群です。2016年建設開始、2024年科学観測開始を目指しているとのこと。SKAが観測する電波は70MHz - 10 GHz。巨大電波望遠鏡と言えば僕も関わっているアルマ望遠鏡がありますが、その観測周波数は30 - 950 GHz。アルマ望遠鏡はSKAよりずっと周波数の高い(波長が短い)電波を観測するので、アルマ望遠鏡とSKAは、ライバルというよりは相補的な望遠鏡と言えるでしょう。
SKA完成予想CG credit: SKA Organisation/Swinburne Astronomy Productions |
集光面積が大きいということは、それだけたくさん電波を集めることができて感度が良いということ。同じような周波数の電波を観測するアメリカのJansky VLA は口径25mのアンテナ27台なので、集光面積は単純計算で約13,000平方メートル。SKAの100万平方メートルとは二桁違います。また、50 MHz - 1.4 GHzの電波を観測できるインドのGiant Meterwave Radio Telescope (GMRT)は45mのアンテナ30台で、集光面積は約48,000平方メートル。全然SKAには及びません。つまり、SKAはダントツにデカいということですね。
SKAには現在、オーストラリア・カナダ・中国・イタリア・ニュージーランド・オランダ・南アフリカ・イギリスの8か国が正式メンバーとして参加しています。本部はイギリス・マンチェスターのジョドレルバンク天文台に設置されています。日本は、正式にお金を払って参加、という決定はまだしていません。
SKAは数十MHzから10 GHzの電波を観測するのですが、この周波数帯は人間社会でもよく使われています。テレビやラジオ、携帯電話、無線通信。高感度の電波望遠鏡を作って宇宙から来る微弱な電波に耳を澄ませようとしても、こうした人工電波が邪魔をしてしまっては観測を行うことができません。つまりこの望遠鏡を建設する場所は、できるだけ人工電波が少ない場所がよいというわけです。そこで名乗りを上げたのが、オーストラリア・ニュージーランド連合と南アフリカを中心とするアフリカ諸国でした。
SKAの建設費は約1500億円。その全部が建設地に落ちるわけではないですが、それでも一大事業には変わりありません。特にアフリカにとってはこのような世界的な科学事業を誘致できれば関連する技術開発企業の誘致や投資を呼び込むこともできるわけで、SKAの誘致には非常に熱心でした。まあSKAを使う天文学者の側とすれば、観測環境が良いこと、観測所へのアクセスとか治安とかが確保されていること、というような条件がそろっていれば、オーストラリアでも南アフリカでもそれほど違いはないと感じます。いずれにしてもアルマ望遠鏡と同じ南の空を重点的に調べることができますし。
ではこのSKAでどんな天文学をやるのか。ウェブサイトによると5つのキープロジェクトが挙げられています。
- 銀河の誕生と進化、宇宙膨張
宇宙に存在するガスの主要構成要素である水素原子から放射される周波数1.42 GHzの電波を観測。 銀河の外縁部や銀河間空間にある水素ガスの分布を明らかにし、これらがどのように銀河に取り込まれて銀河が成長していくのかを調べます。また、重力レンズ効果を使って宇宙の中のダークマターの分布を調べ、それと宇宙膨張の関係を探ります。 - パルサー・ブラックホール周囲の強重力場での重力理論検証
重力の理論としては、アインシュタインの一般相対性理論が広く受け入れられています。パルサー(中性子星)やブラックホールなど非常に重い天体のごく近くは、一般相対性理論で予言される様々な効果が現れるので、その検証に適しています。パルサーは非常に規則正しく電波を出しているので、その電波を観測することでパルサーの運動を詳しく調べ、重力理論を検証します。 - 宇宙磁場の起源と進化
地球が磁石のはたらきを持っているのと同様に、宇宙にも普遍的に磁場(磁石の力)が存在していています。この磁場は星の形成などにおいてもとても重要な役割を持っていますが、実は磁場の測定はとても難しいのです。磁場中を電磁波が飛んでくるときに偏光面が回転する「ファラデー回転」という現象を観測し、宇宙の磁場地図を作ります。星が生まれてくるガスの雲のなかでどのように磁場が分布しているかを調べることは、星の誕生のメカニズムの理解にとても重要です。 - 惑星の形成と地球外知的生命
太陽系外にもたくさんの惑星が見つかっていますが、その多様な惑星系の形成メカニズムはまだ明らかにはなっていません。宇宙には形成途上にある惑星系も多くあるので、SKAはこれらを観測し、惑星形成過程をつぶさに観測します。(ただし、SKAはオリジナルの案では周波数30GHzまで観測する予定だったようですが、現在はとりあえず10GHz以下までしか観測しないということで、それだと電波も弱く解像度も最高レベルにはならないので、この点どこまでSKAで迫れるかよくわかりません。まあこのあたりはアルマ望遠鏡がカバーする範囲ではあります。)
また、SKAは驚異的な感度を持っているので、もしほかの星に知的生命体が存在していて電波を通信のために使っているとしたら、その電波をキャッチできるかもしれません。計算上、人間が使っているのと同じくらいの強度のテレビ電波であれば数光年先の距離でも受信できるという計算です。もちろん、相手が『知的生命体との通信』を目指してもっと強く電波を出していれば、より簡単に受信できるでしょう。これまでの地球外知的生命探査(SETI)よりも1000倍も広い範囲(主に奥行き方向に広くなる)をターゲットにできます。 - 宇宙の暗黒時代
ビッグバンのあと宇宙が冷えてから、星や銀河が宇宙に広がって宇宙が熱せられる間の期間を『宇宙の暗黒時代 (The Dark Age)』と呼びます。最初の星や最初の銀河はこの暗黒時代に作られるわけですが、その様子はよくわかっていません。暗黒時代に満ちている中性の水素原子が出す電波はSKAがカバーする観測周波数帯域にありますので、SKAが活躍できる分野の一つです。
というわけで次回は、ちょっと複雑なことになってしまったSKA建設地のことについて紹介します。